骨粗鬆症②:椎体骨折のある骨折の危険性の高い骨粗鬆症、脳血管障害あり

症例提示

年齢・性別:75歳、女性
主訴:2週間前から背中が痛くて動きづらい
現病歴:特に転倒や重い物を持ったわけではないが、2週間くらい前から背中が痛い。ベッドから起きる時や、立ち上がろうとする時など、体を動かすと背中が痛くなる。
既往歴:高血圧で降圧薬を内服 胃潰瘍で治療中 6か月前に軽い脳梗塞を発症

状況からの医学的判断

特に誘因なく背部痛が出現しているため、いわゆる「いつの間にか骨折」の可能性があります。
大きな外力がなく脊椎骨折が生じた場合には骨粗鬆症の診断となりますが、「いつの間にか骨折」の可能性があり、通常の骨粗鬆症ではなく、骨密度がかなり低い「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」の可能性があります。
ほかには、年齢からは、何らかの悪性疾患が骨転移していることも想定されます。
下肢のしびれなどはないようなので、脊椎破裂骨折(下肢のしびれ・痛み・筋力低下などの神経症状が発生することがある)よりは、脊椎圧迫骨折(下肢の神経症状は発生しない)の可能性が高いと判断されます。

診断計画

まずはレントゲンで骨折の有無を評価することは必須。
痛みがある背部(胸椎)のほかに、腰椎にも骨折がある可能性があるため、胸椎と腰椎のレントゲン撮影を行います。
悪性疾患が骨転移の可能性があるため、MRI検査が望ましい。
骨折が確認できた場合、骨粗鬆症の診断が確定となります。
今回の症例では、「骨折の可能性の高い骨粗鬆症」の可能性があり、骨密度測定が強く推奨されます。

診断経過

レントゲン検査で、第1腰椎に圧迫骨折が確認されました。
MRI検査では、第1腰椎は一様にT1強調画像でlow(黒い)、STIR画像でhigh(白い)であり、信号変化は椎弓根に達していないので、悪性腫瘍の骨転移は低く、骨折の診断となりました。
骨粗鬆症の確定診断となり、骨密度検査を施行した結果、腰椎の%YAM値(骨密度の評価のために重要な値で70%以下では骨粗鬆症の診断となる)は55%、大腿骨頚部の%YAM値は59%、total hipの%YAM値は65%でした。
骨密度は上記の3つの値のなかで最も低い値(55%)で評価をすることが規定されており、%YAM値が60%を下回っているため、通常の骨粗鬆症ではなく「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」の診断となりました。

診断名の確定

以上より、第1腰椎圧迫骨折、骨折の危険性の高い骨粗鬆症が診断名となります。

治療方針

・第1腰椎の圧迫骨折は、骨が治癒せずにつぶれてしまう(圧壊といいます)可能性があるためコルセットを作成し、3か月間装着することが強く勧める。
・コルセットは、ダーメンコルセットを作成する。
・痛みに対しては、胃潰瘍で治療中のため、ロキソニン🄬は避け、カロナール🄬とノイロトロピン🄬を処方する。
・歩行のふらつきが強いため、運動器リハビリテーションを2回/週、施行する。
・骨粗鬆症の治療のために採血検査(血清Ca値、腎機能、骨代謝マーカー、ビタミンD値、副甲状腺ホルモン値など)を行う。

治療経過

・コルセットが完成し、装着後6週間で痛みが消失したため、カロナール🄬とノイロトロピン🄬の処方は終了した。
・歩行のふらつきは続いていたため、8週間、運動器リハビリテーションを行った後、終了した。・ダーメンコルセットは、3か月経過後に、徐々に装着時間を短縮し、2週間で完全離脱した。
・採血の結果、血清Ca値、腎機能、副甲状腺ホルモン値は正常であったが、骨代謝マーカーは低回転型(骨形成低値、骨吸収正常)であり、「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」であるため、テリパラチド(フォルテオ🄬)やロモソズマブ(イベニティ🄬)が候補治療薬となるが、6か月前に軽い脳梗塞を発症していることからロモソズマブ(イベニティ🄬)が使用できないため、テリパラチド(フォルテオ🄬)を開始した。


補足事項

『モデル症例報告』は、代表的な疾患や患者様の代表的な状況を、検査内容、医師の判断内容、治療法などをわかりやすくモデル化することにより、「エメラルド整形外科疼痛クリニックの治療方針を知ってもらうため」に考案しました。
そのため、『モデル症例報告』の内容は、個々の患者様の実際の内容ではなく、同様の状況の患者様をモデル化した一般的な話です。

エメラルド整形外科疼痛クリニック

・札幌市北区麻生に開院している整形外科クリニック(電話:011-738-0011)
・治療方針は、「両極の治療」
・特徴は、多彩な独自の治療法漢方薬バイオフィードバックなど)
・2単位40分・担当制のリハビリテーションを施行
骨粗鬆症を積極的に治療
・院長は『骨粗鬆症治療の真実と7つの叡智®~超健康と長寿の秘訣~』を出版