骨粗鬆症④橈骨遠位端骨折(レントゲンで診断可能)のある骨粗鬆症

症例提示

年齢・性別:55歳、女性
主訴:右手の痛み
現病歴:昨日、外出中に転倒して右手をついて受傷。痛くて右手を動かすことができないため、受診。
既往歴:特になし

状況からの医学的判断

屋外で転倒したことを契機に痛みが出現しており、何らかの外傷(ケガ)の可能性が高い状況です。
手の痛みということなので、高い頻度としては、橈骨遠位端骨折、TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷、中手骨骨折、舟状骨骨折がまず疑われますが、そのほかに稀なものとしては、三角骨骨折、舟状月状骨間解離、月状骨周囲脱臼が考えられます。

レントゲン撮影で骨折の診断が確定しない場合には、症状に応じてMRIを撮影し、骨折の有無を調べることがあります。

さらに、橈骨遠位端骨折が発生した場合、脆弱性骨折に該当するため、年齢・性別から骨粗鬆症が疑われる場合には、患者様にその旨を説明し、骨粗鬆症の精査の希望がある場合には骨密度検査を行うこととします。

診断計画

レントゲン撮影は、骨折の診断には必須です。
レントゲン撮影で骨折がなかった場合は、状況によりMRI検査を追加します。

診断経過

レントゲンで橈骨遠位端が転位しており、橈骨遠位端骨折の診断です。転位は軽度であるため、手術の必要性はほとんどなく保存的治療が選択されます。

橈骨遠位端骨折が脆弱性骨折であるため骨粗鬆症の疑いがあることを患者様に説明し、骨粗鬆症の精査の希望があったため、骨密度検査を施行しました。
骨密度検査では、腰椎の%YAM値(骨密度の評価のために重要な値で70%以下では骨粗鬆症の診断となる)は80%、大腿骨頚部の%YAM値は75%、total hipの%YAM値は78%でした。
骨密度は上記3値のなかで最も低い値で評価をするため、75%となり、70~79%の範囲にあり、さらに橈骨遠位端骨折という脆弱性骨折があるので、骨粗鬆症の診断基準を満たすため、骨粗鬆症の診断となります。

診断名の確定

以上より、右橈骨遠位端骨折と骨粗鬆症が診断名となります。

治療方針

・右橈骨遠位端骨折は転位がないため、手術ではなく保存的治療を選択し、シーネ固定を3-4週間継続(医師によってはギプス固定を選択することもある)。
・シーネ固定を外したのち、可動域制限が生じた場合には、リハビリテーションを施行する。
・痛みに対しては、ロキソニン🄬やノイロトロピン🄬を処方する。
・これらを使用しても痛みが強い場合には、複合性局所疼痛症候群に移行する可能性があるため、自院でペインコントロールを開始する。
・骨粗鬆症の治療のために採血検査(血清Ca値、腎機能、骨代謝マーカー、ビタミンD値、副甲状腺ホルモン値など)を行う。

治療経過

・シーネ固定を4週間施行した後で、シーネ固定を解除した。
・可動域制限が生じたため、リハビリテーションを1回/週の頻度で施行し、4週間で可動域制限が消失したため、終了した。
・痛みは、ロキソニン🄬とノイロトロピン🄬で速やかに消失したため、2週間で終了した。

骨粗鬆症の治療薬の選択

・採血の結果、血清Ca値、腎機能、ビタミンD値、副甲状腺ホルモン値は正常であったが、骨代謝マーカーは高回転型(骨形成正常、骨吸収亢進)であった。
・現状では、活性型ビタミンD3薬であるエルデカルシト―ル(エディロール🄬)や、SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)であるラロキシフェン(エビスタ🄬)や、バセドキシフェン(ビビアント🄬)、ビスホスホネート薬であるアレンドロン酸(ボナロン🄬)、リセドロン酸(ベネット🄬)や、デノスマブ(プラリア🄬)などが治療薬の選択肢となる。

・治療薬選択の1つの考え方としては、55歳という年齢から大腿骨近位部骨折を発症する可能性が低いため、椎体骨折の抑制効果に着目して活性型ビタミンD3薬であるエルデカルシト―ル(エディロール🄬)や、SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)であるラロキシフェン(エビスタ🄬)や、バセドキシフェン(ビビアント🄬)を使用するという考え方はある。
・しかし、院長は拙著『骨粗鬆症治療の真実と7つの叡智®~超健康と長寿の秘訣~』で記載しているように、55歳という年齢であったも実際に大腿骨近位部骨折が発症しているため、椎体骨折の抑制効果だけでなく大腿骨近位部骨折の抑制効果もあわせて有するビスホスホネート薬であるアレンドロン酸(ボナロン🄬)、リセドロン酸(ベネット🄬)や、デノスマブ(プラリア🄬)の使用がより望ましいと考えており、患者様に上記を説明し、相談の上、デノスマブ(プラリア🄬)を開始した。
・デノスマブ(プラリア🄬)使用の際に推奨されているデノタスチュアブル🄬も同様に開始した。


補足事項

『モデル症例報告』は、代表的な疾患や患者様の代表的な状況を、検査内容、医師の判断内容、治療法などをわかりやすくモデル化することにより、「エメラルド整形外科疼痛クリニックの治療方針を知ってもらうため」に考案しました。
そのため、『モデル症例報告』の内容は、個々の患者様の実際の内容ではなく、同様の状況の患者様をモデル化した一般的な話です。

エメラルド整形外科疼痛クリニック

・札幌市北区麻生に開院している整形外科クリニック(電話:011-738-0011)
・治療方針は、「両極の治療」
・特徴は、多彩な独自の治療法漢方薬バイオフィードバックなど)
・2単位40分・担当制のリハビリテーションを施行
骨粗鬆症を積極的に治療
・院長は『骨粗鬆症治療の真実と7つの叡智®~超健康と長寿の秘訣~』を出版