骨粗鬆症⑦大腿骨頚部骨折(MRIではじめて診断可能)のある骨粗鬆症

症例提示

年齢・性別:70歳、女性
主訴:右股関節が痛い
現病歴:昨日、外出の際に玄関でつまづいて転倒。その後、右股関節付近の痛みが発生し、歩行が困難となったため、家族と受診した。
既往歴:高血圧で治療中

状況からの医学的判断

転倒の際に受傷し、右股関節に強い痛みが出現し、歩行にも障害が生じているため、大腿骨近位部骨折(大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折の総称)を起こしている可能性がかなり高い。
大腿骨近位部骨折は、早急に手術を受けることが望ましいため、早急な診断・対応が望ましい。

また、例え大腿骨近位部骨折を発症していたとしても、転位(ズレ)がない場合にはレントゲン撮影では診断ができないため、その際には積極的にMRI撮影を行い、早急な診断を心がける。
その理由は、大腿骨近位部骨折は、転位(ズレ)がない場合であっても早期に手術を施行し速やかに離床していくことが、生命予後にとても重要となるからである。

大腿骨近位部骨折が脆弱性骨折である場合には骨粗鬆症の診断となるが、まずは骨折の手術を優先し、落ち着いてから骨密度や採血などの精査を、入院先の医療機関あるいは退院後に当クリニックで行うことが望ましい。

診断計画

レントゲン撮影は診断に必須であり、レントゲン撮影で骨折がなかった場合でも大腿骨近位部骨折は否定できないため、原則的にMRI検査を追加する。

診断経過

レントゲン撮影では右股関節に明らかな骨折はなかった。
MRIでは、右大腿骨頚部がT1 low、STIR highであり、右大腿骨頚部骨折の診断となった。
なお、ここ以外には明らかな骨折はなかった。

診断名の確定

以上より、右大腿骨頚部骨折と骨粗鬆症が確定診断となった。

治療方針

・大腿骨頚部骨折は転位がない場合でも早急に手術を行い、早期の離床・歩行訓練を開始することが生命予後の点から非常に重要である。
・本症例の場合は大きな病気がないことや年齢から体力的にも手術は可能と判断されるため、早急に入院・手術が可能な医療機関に搬送することが望ましい。
・院長自ら、提携医療機関に電話し、担当医と電話で患者様の治療の受け入れを依頼する(いわゆるDr-to-Drの電話)。
・エメラルド整形外科疼痛クリニックは、札幌市の10区のうち、5区(中央区、西区、東区、手稲区、豊平区)に提携医療機関があり、また提携医療機関以外にも頻回に受け入れを依頼している病院があるため、それらの病院に連絡し、相談する。
・患者様の受け入れが決定した場合、診療情報提供書(画像はCD-Rに保存)を作成する。
・患者様は、すみやかに受け入れ先の医療機関に受診してもらう。
・大腿骨頚部骨折の場合、退院後もリハビリテーションをある程度の期間継続することが望ましい。
・その際には、そのまま受け入れ医療機関でリハビリテーションを継続する場合と、当クリニックでリハビリテーションを施行する2通りの状況があるが、当クリニックでリハビリテーションを継続し、受け入れ医療機関には定期的に外来受診をする場合がほとんどである。

治療経過

・骨折は転位がなかったため、受け入れ医療機関は人工骨頭置換術や全人工股関節置換術(THA)ではなく、観血的骨接合術(ORIF)を施行した。
・1本杖歩行で4週間後に自宅退院と経過は良好であった。
・受け入れ医療機関には、月1回の頻度で外来通院し、リハビリテーションは当クリニックで3回/週の頻度で施行し、3か月で終了した。
・当クリニックで、骨密度検査と骨粗鬆症用採血検査を施行し、腰椎の%YAM値(骨密度の評価のために重要な値で70%以下では骨粗鬆症の診断となる)は63%、左大腿骨頚部の%YAM値は58%、total hipの%YAM値は59%だった。

骨粗鬆症の治療薬の選択

・採血の結果、血清Ca値、腎機能、ビタミンD値、副甲状腺ホルモン値は正常であったが、骨代謝マーカーは高回転型(骨形成正常、骨吸収亢進)であった。
・過去1年以内に虚血性心疾患や脳血管障害の既往がなく、骨密度が-2.5SD以下で1個以上の脆弱性骨折があるため、患者様とご家族に各種の治療薬の説明をし、ロモソズマブ(イベニティ🄬)による治療を開始した。


補足事項

『モデル症例報告』は、代表的な疾患や患者様の代表的な状況を、検査内容、医師の判断内容、治療法などをわかりやすくモデル化することにより、「エメラルド整形外科疼痛クリニックの治療方針を知ってもらうため」に考案しました。
そのため、『モデル症例報告』の内容は、個々の患者様の実際の内容ではなく、同様の状況の患者様をモデル化した一般的な話です。

エメラルド整形外科疼痛クリニック

札幌市北区麻生に開院し、痛みに対して積極的に治療を施行(電話:011-738-0011)
・治療方針:「両極の治療」
・治療方針の解説:全国初の試みである『モデル症例報告』を通じて、わかりやすく詳細に解説
・特徴:多彩な独自の治療法漢方薬バイオフィードバックなど)
・リハビリテーション:理学療法士は担当制で、2単位40分で実施
骨粗鬆症『骨粗鬆症打開プロジェクト』を展開するなど、積極的に治療
・院長の書籍:『骨粗鬆症治療の真実と7つの叡智®~超健康と長寿の秘訣~』

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